サッカー_02
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1: 2018/11/16(金) 06:27:55.30 ID:CAP_USER9
2017年にJリーグ「V・ファーレン長崎」の代表取締役社長に就任した高田明氏。言わずと知れたジャパネットたかたの創業者だが、勝ち負けにこだわらない点で他のクラブ社長とは明らかに違う。高田社長は何を目指しているのか、その思いを取材した。(サッカーライター 江藤高志)

● 高田社長が繰り返す言葉 「サッカーには夢がある」

 ジャパネットたかたの創業者で、2017年にV・ファーレン長崎の代表取締役社長に就任した高田明氏が、他クラブの社長と明らかに違うことがある。ツイッターのフォロワー数が4.8万人に上るのだ。そのツイッターアカウントで高田社長が繰り返しつぶやいてきたフレーズが、「サッカーには夢がある」というものだ。

 高田社長にとってのキーワードにも感じられるこのフレーズについて尋ねると、ある日のことを語り始めた。2017年11月11日。長崎がJ1昇格を決めた日だ。

 「カマタマーレ讃岐に勝ってJ1への自動昇格を決めた。あの時のスタジアムの雰囲気はすごかった。スタジアムにいたほとんどの方が、感動して涙を流していた。本当によかった。そういうところからあの言葉を使っています」

 サッカーには、人を笑顔にさせる力がある。J1昇格という一大イベントを通じ、その力を実感した高田社長がクラブの代表になって以降、大事にしていることがある。それが人と触れ合うこと。高田社長はそれを自身の使命なのだと説明する。

 「私の使命は来られているサポーター、ファンのみなさんと触れ合うこと。だから他チームに行ったときに、相手チームのサポーターさんと話すのはそういうこと。みんないい人ばかりなんですよ」

 面と向かって話すことで伝わる人の感情は、やはり大きなものがあるという。

 「あそこは危ないですよ、過激な人もいるからと心配されることもあるんですが、そんなことないですよ。話せばみんないい人ばかりです。そこで交流することの中に、本当のサッカーの姿があると思っていましてね。それが夢だったり、愛とか平和とかにつながる気がするんですよね」

 普通の人であれば、なかなか面と向かっては口にしづらい、どこか面はゆくなるような言葉だが、それでも高田社長は愛や平和という言葉をV・ファーレン長崎が目指すものとして語る。だが、通販番組を通し、数多くの視聴者に商品の良さを伝えてきた高田社長が言う言葉は、不思議とすんなり入ってくる。
● 通販の共通点は 向き合う相手の存在

 2015年にジャパネットたかたの社長を退任し、2017年にV・ファーレン長崎の社長に就任。通販事業からクラブ経営へ。全く違う業界のように思えるが、この転身について、本質的なところは同じであると高田社長は話す。

 「通販とサッカーで違うとは思っていなくて、この両者には共通点があると思っています。それは、向き合う相手がいるということです。サッカーはファン、サポーターや長崎県民、スポーツを愛する人のための活動で、ビジネスは消費者のために。人のためにという企業のミッションは、どの業界にも共通することだと思うんです。人は人のために生きてこそ人、私はそう思っています」

11/16(金) 6:00配信 ダイヤモンド
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20181116-00185581-diamond-bus_all
冒頭でも記した2017年11月11日のシーズン最終戦は、キャパシティ2万人あまりのスタジアムに2万2000人を収容し、警察から叱られたのだと苦笑いする。

 「でもその時は長年の悲願がかなったときで、満員のスタジアムでほとんどの人が涙を流して、近くの知らない人とも抱き合って喜んでいた。これが、まさしくスポーツが目指しているものだなと思いました。私は通販の世界に30年近く身を置いてきましたが、お客さんがその商品を使って喜ばれる姿が本当にうれしくて、一番自分の力になってくれますから。それと同じなんですよね」と笑顔を見せた。

● 笑顔にできるポテンシャルを 「ピースマッチ」で実感

 人々を笑顔にできるサッカーのポテンシャルをより強く実感したのが、2018年8月11日に広島で行われた「ピースマッチ」だった。

 「広島と長崎は、被爆都市をホームタウンに持つ世界でただ2つのサッカークラブですから、『ピースマッチ』の開催には特別な思いがありました。8月に広島で行われたピースマッチには、長崎からも3000~4000人の方が行かれていると思うのですが、残念ながら試合には2-0で負けました。でも終わった後に、広島サポーターが長崎コールをしてくれて、その後に長崎の方が広島コールを返しました。まさに勝ち負けとは違う、そういう価値を超えたものがそこに生まれていました。そして、その交流の中から広島、長崎という2つの都市が持つ意味を感じました。Jリーグは、勝ち負けを超える文化を生み出せる段階にきているのではないかと、そんなことを考えました」

 話題を呼んだこのピースマッチに加え、2015年から続けられてきた「平和祈念ユニフォーム」は前経営陣が企画したものだった。平和祈念ユニフォームとは、8月の数試合を対象に平和への思いを新たにするために公式戦で着用されてきたものだ。

 前経営陣が残した負の遺産は清算する一方、いいものは残す。新たに必要なものを加える。高田社長はこの作業をシンプルな言葉で言い表している。

 「捨てる、残す、加える」
 そうした中で続いてきた長崎の平和への取り組みは、チームのJ1昇格とともに各方面に広まりつつある。

 また髙田社長は、「戦争」「平和」という言葉で語られる平和だけでなく、人種も、年齢、性別も関係なく、みんなが声を出して選手を応援し、全力のプレーに感動するその光景に、スポーツが生み出す「日常の中の平和」を感じるのだという。

● 勝ち負けはあくまで「手段」 ファンに愛されることが重要

 高田社長は、V・ファーレン長崎が大切にしているものとして「愛と平和と一生懸命」という言葉を使っている。プロスポーツの世界では、やはり勝たなければいけないという声も多いが、勝ち負けはあくまで「手段」であるという。

 「勝ち負けが手段というよりは、サッカー自体が手段だと思っています。サッカーを通して、人は何を求めているのかということですね。10年間ずっと勝った負けたばかりを繰り返していても面白くないし、本当の意味でファンに愛されるようにはならないのではないかと思います」と語った後、こう続けた。

 「ピースマッチで広島に行ったとき、カープファンが本当にたくさんいらっしゃることに驚きました。その時『カープは広島の文化です』とある方に言われて、これこそスポーツの目指す理想だなと思ったんです。もちろん、勝負の世界ですから勝たなければいけないときもある。でも、仮に試合に負けたとしても、一生懸命プレーしている選手の姿を見て感動し、応援したいと人は思うのではないでしょうか」

 勝ち負けを超えた新しい価値観の創造。そしてそれが被爆地長崎で実現されることにより、「平和」を考える際の1つの新しいアプローチとなるのかもしれない。

 「プロスポーツクラブというのは、全国どこにでもあるわけではない。特に長崎は被爆地で、平和に対しての思いが強い。そういう人たちの思いを表現していくには、もしかすると政治の世界よりも、スポーツの世界の方が前向きにメッセージを発信していく力を持っているのかもしれない。そういう意味では、ここ長崎に、注目度の高いJ1のチームがあるというのは意義のあることではないかと思います」

● 経営を立て直した後は 若い世代に託して身を引く

 高田社長は今後のクラブ運営について、現在20数億円まできたクラブ予算を、J1クラブの標準的な水準と言える37~38億円程度まで引き上げたいと展望する。経営を引き受けた2017年時が8億円程度だったことを考えると、5倍近い規模になる。その道筋を付けた後は、前に立つのは必ずしも自分でなくてもいいのだと語る。

 「私の役割は、傷んでしまって倒産寸前の、収支のバランスが取れてないクラブの経営を立て直すことだと思っているので」と話す高田社長は、有力企業へのトップセールスでのスポンサー集めにおいても積極的に動いてきた。

 そうした活動も含め、収益が出る構造に改革できた段階で、後は若い世代に託して身を引くつもりだという。親会社であるジャパネットホールディングスが、2023年に長崎市内に建設予定の新スタジアム構想についても「息子たちの若手世代がどのようにスタジアムを造っていくのかは期待しながら見ています。楽しみですね」と語る。

 32節終了時点で、長崎が獲得した勝ち点は29。これはJ1が18クラブになって以降、最下位の最多勝ち点記録だった09年のジェフ千葉の27点を上回る数字だ。例年になく残留ラインが高くなった今季のJ1は長崎にとっては苦しいシーズンになっている。

 J1に残るとしてもJ2に降格することになるとしても、クラブは存続していく。ただ、J1に残ることで見いだせる価値がある。高田社長は静かに、ただし力強く「応援するだけです」と口にした。

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