1: シャチ ★@ 2016/08/04(木) 11:49:20.57 ID:CAP_USER9

1444-2

 
【北條聡のフットペディア】■サッカー用語編『リベロ』

 サッカー史を語る上で必須の専門用語だろうか。しかし、現在では「死語」になりつつある。
リベロを擁するシステム(守備戦術)が下火になった影響が大きい。

 リベロとはイタリア語で「自由」の意味。元々は特定のマークを持たない最終ラインの守備者をこう呼んでいた。
英語のスイーパー(掃除人)や、ドイツ語のアウスプッツァー(火消し)と、ほぼ同じ意味だ。

 かつてのヨーロッパ・サッカー界では長くマンツーマン・ディフェンスが主流だった。
守備の局面において、誰が誰をマークするのか、あらかじめ決めていたわけだ。

 もっとも、守備側の誰かが1対1の勝負に負けると、味方選手が自分のマークを捨ててカバーに回らなければならず、
順番にマークがズレてしまう。そこで最悪の事態を回避する手立てとして、
カバーリング専門の守備者を据えるリベロ・システムが考案され、広く定着するに至った。

 リベロは言わばセーフティーネットだが、単なるスイーパー(カバー専門職)ではないとの見方も根強い。
リベロ・システムが常態化すると、攻撃の局面で敵にマークされないフリーの選手は原則、
リベロだけになる。こちら(攻撃面)の利点も最大限に生かしてこそ、真のリベロというわけだ。

 実際、それを鮮やかにやってのける偉才がいた。それが『皇帝』と呼ばれたフランツ・ベッケンバウアーだ。
1960年代の後半から1970年代にかけて活躍した偉大なるドイツ人は、リベロというポジションの再解釈を試みたパイオニアだった。

 彼の出現以降、最後尾から果敢に敵陣へと進出する「攻撃的リベロ」が生まれている。
1980年代に活躍したモアテン・オルセン(デンマーク)や1996年にバロンドールを受賞した
マティアス・ザマー(ドイツ)らが、そうだ。また若き日のルート・フリット(オランダ)も空前の
ゴールラッシュを演じた破天荒なリベロだった。

 だが、彼らのような「自由人」は、21世紀の現代で、ほぼ居場所がない。1990年代後半から
多くのチームがゾーン・ディフェンスへ移行したからだ。

 伝統のリベロ・システムに執着してきたドイツも、2006年に自国で開催されたワールドカップで
本格的にゾーン・ディフェンスを採用している。ベッケンバウアー、マテウス、ザマー、
トーンら歴代リベロの系譜が、ここで途絶えることになった。

 いまや「絶滅危惧種」とも言うべきリベロだが、マンマークの守備戦術に「理と利」を見いだす指導者がいれば、
必須のアイテムとして復活するだろう。むしろ、ゾーン・ディフェンスが常態化した現代こそ、利得は大きいのではないか。

 他者(とくに強者)のマネをしていては勝てない――そう考える指導者にとって、リベロと、
その仲間たちで構成される「安全網」は、僅差(きんさ)勝ちやジャイアントキリングへ導く
魅力的なシステムに映るかもしれない。

◆北條聡(ほうじょう・さとし)サッカーライター。栃木県出身。早大卒。1993年より老舗の
専門誌『サッカーマガジン』勤務。以来、サッカー業界一筋。2004年より『ワールドサッカー・マガジン』編集長、
2009年より『週刊サッカーマガジン』編集長。2013年に退社し、フリーランスに。
著書に『サッカー世界遺産』『サカマガイズム』(ベースボール・マガジン社)。
敬愛する選手はカルロス・バルデラマ(コロンビア)

(朝日新聞デジタル「&M」)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160804-00010000-asahit-socc

続きを読む